スピーキング学習にまつわる間違った情報が蔓延するこの頃、第二言語習得の理論から見て間違っているものをここに挙げてみたいと思います。
間違い1:読み書きがある程度できるようになってから話す練習をするべき。
「スピーキング力を付けるのは難しいので、読み書きができる様になってから行うのが良い」と言っている人がいます。多分これは学校などでスピーキングが教えられていなかったため、スピーキング能力が他の能力より劣り、難しいと思い込んでしまっているからかもしれません。実際、母国語の習得を考えると、子供は始めに話すことを始め、その後リーディングやライティングの力を付けていきます。スピーキングは特に難しいわけではないという証拠の一つだと思います。
英語を母国語とする子供がどのようにスピーキングの力を付けていくかというと、先ずは単語での発話→数単語を繋げた発話→短いセンテンスの発話→長いセンテンスでの発話と変わっていきます。その過程では文法の間違いがよく起こりますが、力が付いてくると同時に少しずつその間違いは減っていきます。外国語を学ぶ時も始めは簡単な発話からスタートするのがいいと思います。始めは間違えもよく起こりますが、力が付いていくと徐々に無くなって来るので始めから間違えなしで話そうとしなくていいです。間違えなしで話そうとするとスピーキングをすることがとても難しくなり、逆に学習の妨げになります。
間違い2:小さい時に英語に触れるべき。
小さい頃に始めておかないとスピーキング力は付かないと思っている人がいる様です。これは100%間違っているとは言いませんが、間違って理解されているような気がします。
100%間違っていない理由として、小さい頃に始めるとUltimate Achivement、つまりネイティブのような能力を付けることが可能です。年齢を重ねるごとにUltimate Achivementは難しくなります。ただし、Ultimate Achivementを実現するには毎日何時間も英語でコミュニケーションが取れる環境が必要で、それを何年も続けることが大切です。子供の時親の仕事でアメリカに2−3年住んでいてその頃ペラペラ話していたけど、それから日本へ帰国し大人になった今はあまり喋ることができないと聞くことがあります。継続をしていくことがとても重要になります。
上とは逆に、大学、会社に入ってから英語学習に目覚めたという人で英語をとても流暢に使い留学や仕事をしている人がいます。勿論コツコツと学習を積み重ねた努力の元での結果ですが、年齢に関係なく外国語学習は可能です。
間違い3:常に文法を正しく使って話すべき。
第二言語習得の理論から言うと、始めから間違えのない英語で話すと言うことは不可能です。と言うのは第二言語習得の理論の一つにLearnabilityというものがあり、学習の段階ごと使いこなすことができる文法には限りがあるからです。例えば、三人称単数のsなどは、まだ英語で話す力があまり付いていないレベルの学習者には正しく使って発話をすることは無理だと言われています。三人称単数sは意味を伝えるという面であまり重要な役割を果たしていません。なので能力が上がるにつれ間違えなく使える様になる文法です。それとは逆に進行形、過去形など間違えると意味が通じなくなるものは早い段階から使える様になります。
学習のプロセスとして重要なのは、まずは意味をクリアに伝えるために必要な文法を使いこなせる様になること、そして徐々にその他の文法へ移行してください。
間違い4:ネイティブの様な発音を目指すべき。
言語学の世界では「ネイティブの発音」というのが大きな問題になってます。一体ネイティブの発音というのは何を指しているのか、イギリス人のか、アメリカ人のか、そのほかの英語を母国語として話す人のか。もしアメリカ人の発音であれば、東部に住んでいる人のか南部に住んでいる人のか。つまり英語は色々な国で話されていて発音のバリエーションがとても様々であるのでネイティブの発音と一言では言えないのです。
また英語を第二言語として話す人の数はとても多く、アクセントを持ちながら大活躍をしている人はとても多いです。例えばヘンリー・キッシンジャー、アメリカの国務長官だった人は強いドイツ語訛りで英語を話すことで有名でした。
重要なことはネイティブの様な発音で話すではなく、聞き手にわかりやすい発音を習得すること。つまり、ネイティブを目指す必要はありません。また発音より中身、話す内容は発音よりはるかに重要になります。
間違い5:母国語を学ぶ時と同様に正しい英語を聴き正しく話すことが必要で、文法は学ばなくてもよい。
英会話にフォーカスを置く英語教室などでよく聞く間違いです。このアイデアは1980年代くらいまでは正しいとされていたのですが、それから以降の研究ではサポートされていません。
文法など理解できる年齢になってから外国語を学ぶ場合、文法を知っていると学習のスピードをアップすることができます。文法ばかり勉強していてほとんど発話をする機会がない場合は勿論スピーキングの力は伸びませんが、文法を学びながらしっかり発話の練習もするのであれば、文法学習はプラスになります。ただし、間違い3で言ったように習った文法は全てがすぐに使える様になるわけではありません。始めは間違えが多いのが普通です。能力が上がるにつれ少しづつ間違えを減らしていってください。
よく母国語を学ぶ様に習得すればいいと言ってますが、母国語と外国語の習得には大きな違いがあります。外国語を学ぶ時には既に母国語の文法が頭に入っていて、その知識を使って外国語を理解しようとします。ですので外国語を学ぶ時は母国語の文法などの違いを理解しなければならないという過程が存在します。ただ英語を聞くだけではどの様に文法が違うのかはなかなか理解できず、学習に影響を及ぼします。ただ先に言ったように、文法が役に立つのは文法というものが理解できる年齢になってからです。それまでは英語に触れ、聞いたものをベースに返答するというというのが正しいと思います。
間違い6:短期間で英語が話せる様になる。
「英語が話せるようになること」が簡単な挨拶などができるという意味合いであればもちろん短期間での習得は不可能ではありません。ですが、もしここで言われている「話せるようになること」が英語である程度のコミュニケーションが取れるということであればほぼ不可能です。特に英語のように日本語との文法や単語が大きく違う言語でコミュニケーションが取れるようになるには長い期間の継続的な努力が必要になります。
短期間で話せる様になると言っているプログラムの中身を見たことはありませんが、私の想定としては色々な表現を暗記しそれを使いこなすというアイデアがベースになっていると思います。もしそうであれば、暗記した表現がそのまま使える状況はあまり多くなく、実際の場面でそれを使ってコミュニケーションを成り立たせることは難しいと思います。習得への近道は日々の継続的な努力です。